昭和天皇のご訪米

今から41年前の1975年、昭和天皇と香淳皇后が公務としてはじめてアメリカを訪れました。終戦30年後の出来事です。当時のアメリカ大統領はフォード元大統領で、その時の資料はミシガン州にあるジェラルドRフォード大統領図書館に所蔵されていますが、資料の一部は米国国立公文書館でも閲覧することができます。

 

昭和天皇と皇后両陛下ご訪米は2週間もの長旅で、この間全米各地をご覧になられたようです。ワシントンDCを訪れた際でのパーティでは、約250~300もの日本人報道関係者が取材にきたそうで、その様子はライブ中継で日本でも放送されるほど、当時の日本にとっては大きなイベントだったようです。そして迎える側のアメリカでもかなりの準備が成されたことが資料からうかがい知ることができます。

 

資料の中にこんな文章がありました。「日本天皇の役割は純粋に儀礼的である。しかし戦前の天皇の存在は、半神半人として国家の主権を具体的に示すと考えられ、すべての政治的な権限は天皇の名において決定されていた。戦後それらの権限が剥奪された後もなお天皇の地位は守られたことに、昭和天皇と日本国民は感謝するとともに少し驚きもあったことだろう。」

 


State Visit of Emperor Hirohito of Japan, 2-3 Oct. 1975, Record Group 59 Entry A1-5037 Box222, General Record of the Department of State, Briefing Books 1958-1976 Lot75D447, National Archives at College Park, MD

 

また「日本国民にとって天皇陛下はとても尊い存在であることを念頭におき、礼儀を欠いた態度を取らないこと」など言動を慎むよう示唆する文章もありました。アメリカと日本ではこうした礼儀作法は大きく異なるので、この行事に関わるアメリカ側の関係者たちはさぞ気苦労をしたことと思います。

 

興味深かったのが、昭和天皇の人となりを綴った文章です。ここでは、昭和天皇はとても無口な方で気軽な会話や世間話というのがなかなか難しいお人柄と記しています。そして会話が弾むように、いくつか昭和天皇がご興味を持ちそうな質問や話題が、場面ごとで準備されていました。例えば「ご到着セレモニーでの陛下との会話」「ホワイトハウスでの会食の前と最中の陛下との会話」などです。

 


State Visit of Emperor Hirohito of Japan, 2-3 Oct. 1975, Record Group 59 Entry A1-5037 Box222, General Record of the Department of State, Briefing Books 1958-1976 Lot75D447, National Archives at College Park, MD

 

またこのご訪米でのスケジュールも細かく記録が残っていました。テレビでしか見たことのないご公務の様子はとてもゆったりとして見えるのに、実際の日程は分刻みで実際はとても大変なお勤めだということを感じました。

 


State Visit of Emperor Hirohito of Japan, 2-3 Oct. 1975, Record Group 59 Entry A1-5037 Box222, General Record of the Department of State, Briefing Books 1958-1976 Lot75D447, National Archives at College Park, MD

 

ご帰国後、昭和天皇からフォード元大統領に送られた御礼状です。

 


Japan-Emperor Hirohito, President (1974-1977: Ford); Office of the Assistant to the President for National Security Affairs, Series: Presidential Correspondence with Foreign Leaders, 1974 - 1977, Record Group; GRF-0351, National Archives at College Park, MD [Online version, https://catalog.archives.gov/id/1555821, National Archives and Records Administration July 8, 2016]

 

日本には宮内公文書館があり、近現代の宮内庁の文書などを所蔵していて閲覧できるようです。しかし、こういった皇室関連の資料をアメリカの公文書館で閲覧できるのはとても貴重なことだと思いました。(SP)