新年おめでとうございます。この2026年は、アメリカ合衆国が建国された1776年から250年目を迎える大きな節目となります。しかしながら、米国社会は以前にも増して混迷を極め、国内についていえば、昨年10月から11月にかけて史上最長の43日間の政府機関閉鎖があったにも関わらず、現在の暫定予算は1月末であり、その後の予算案を巡ってはまだ議会の対立もあり、現時点では、再度の政府機関の閉鎖は回避されるかどうかまだわかりません。しかしながら、たとえ一定期間閉鎖があったとしても、米国国立公文書館が存在する限りは、今後も頑張っていきたいと思いますので何卒よろしくお願い申し上げます。
ワシントンDCには、マーティン・ルーサー・キング・ジュニア記念図書館(Martin Luther King Jr. Memorial Library: MLKML)という公共図書館があります。この図書館は、1972年に、公民権運動指導者マーティン・ルーサー・キング・ジュニアに敬意を表して建設されました。私が米国でまだ大学院生であったころ(1997年から1998年)に、非暴力・平和活動をする組織でインターンをしていた時にその仕事の一環で、この図書館の地下の会議室で開催された会合に出席したことがありました。すでにその図書館は、老朽化が進んでおり、館内もあまり明るくなかったイメージがありました。その後、この図書館は、2017年から本格的な改築工事が進むことになり、2020年に再び開館となりました。今回はこの図書館についてご紹介したいと思います。
上段2枚:図書館前と館内1階、下段2枚:1階のエレベーター前と3階から見下ろした図書室。撮影日1/16/2026
この図書館の最寄り駅は、ワシントン・DCの地下鉄のレッドラインのギャラリー・プレイス・チャイナタウン駅のナインス・ストリート出口を出るとすぐ目の前にあります。正面入り口を入ると目の前の壁にマーティン・ルーサー・キング・ジュニアの絵が広がり圧倒されます。ほかの公共図書館のように、読書はもちろん本の貸し出し、また一般向けのいろいろなイベントや学習プログラムもありますが、スペースが広く、また窓がたくさんあり明るいイメージでした。1階のエレベーターには、ワシントン・DCが発祥地であるゴーゴー・ミュージック(Go Go)の父と言われたチャック・ブラウン(Chuck Brown:1936-2012)の絵が描かれていましたが。この図書館の4階には、“The People’s Archives”(人々のアーカイブス)という大変興味深いコレクションがあります。(The People's Archive:https://www.dclibrary.org/plan-visit/martin-luther-king-jr-memorial-library/peoples-archive) そのコレクションは、ワシントンD.C.の社会、政治、文化活動を記録した個人および組織の記録であり、現在、特にラテン民族や移民、またワシントン・DCが発祥地であるゴーゴー・ミュージックやパンク・ロック、性的少数者とその文化、さらにアフリカン・アメリカンの人々も含めていろいろな人々の社会正義運動といったテーマに関する様々な媒体の資料を収集と整理をしています。
私はパンク・ロックには決して詳しくはないのですが、日本でかつて高校の教員をしていたときは、生徒のメンバーがパンクロックバンドをやっていたために何度か彼らのコンサートにも行ったことがありました。また当時流行っていたブルーハーツ(Blue Hearts)は私の大好きなバンドの一つでもありました。また、米国で夫と知り合ったころだと思いますが、ワシントン・DCのかつて著名なパンク・ロックバンドの一つであったフガジ(Fugazi:1983-2003)というパンク・ロック・バンドのドキュメンタリー映画を見たときに、ワシントン・DCは政治の中心だけでなく、反権力、反商業主義といったポリシーを掲げたパンク・ロック・バンドの深い歴史もある都市なのだと初めて知りました。それから、もう何年も経ってしまいましたが、現在の益々混迷する米国の社会・政治情勢から、あらためてワシントン・DCの独自の文化や人々の闘いの歴史を振り返ることも重要なのではないかとも思いました。つい最近、この図書館に、パンク・ロック関係の資料があることを知り、早速予約を取り、この図書館を訪れました。“The People’s Archives”の資料を閲覧するためには、この事前予約が必要ですが、誰でも予約が取れるので、もし機会があれば是非訪れていただきたいと思います。
この4階には、この資料室のほかに、ゴーゴー・ミュージック、パンク・ロック、またワシントンDCの市長の歴史、さらにアフリカン・アメリカンの闘いの歴史などの展示があり、それらを見るだけでも非常に面白く、勉強になると思いました。
Installation view of exhibition, Up from the People: Protest and Change in DC, Martin Luther King Jr. Memorial Library, Washinton, DC. (Detail showing ABC, January 16, 2026)
上の4枚は、ゴー・ゴー・ミュージックに関する展示の一部です。上記ですでに触れたチャック・ブラウン他が1970年代に作り出した音楽で、ラテン・パーカションを使いながら同じビートを時速させてノリのよさを生み出すファンキーなものといえると思います。このゴー・ゴー・ミュージックも人々の様々な社会運動を生み、励ますことにもなりました。
Installation view of exhibition, Up from the People: Protest and Change in DC, Martin Luther King Jr. Memorial Library, Washinton, DC. (Detail showing ABC, January 16, 2026)
上の4枚は、パンク・ロックに関する展示の一部です。スピードが速く、激しいサウンドを特徴としたパンク・ロックは、「DCハードコア」と呼ばれました。上段右の写真には、1978年にメリーランド州のPGカウンティで結成されたアフリカン・アメリカンのメンバーによるバッド・ブレインズ(Bad Brains)が見えます。下段右の写真には「XXX」が見えますが、この意味は、「麻薬と酒はやらない。」という意味です。もともとは、1980年にワシントン・DCで結成されたマイナー・スレット(MINOR THREAT)のボーカリストであったイアン・マカイ (Ian MacKaye:1962-、のちにFugaziを結成した。)が作った、「ストレート・エッジ」(Straight Edge)という歌に、「自分を破壊させるような麻薬と酒はやらない。」という歌詞がありました。それが、その後のパンク・ロック・バンドの主流になっていきました。近年ではその流れにさらに動物の愛護や権利また環境問題への関心から、ビーガン主義(菜食主義)を貫くパンク・ロック・バンドも多いようです。
Installation view of exhibition, Up from the People: Protest and Change in DC, Martin Luther King Jr. Memorial Library, Washinton, DC. (Detail showing ABC, January 16, 2026)
上の4枚の上段左の写真の中には、”ホームレスのためのラリー“というチラシがあり、フガジ(Fugazi)やポジテイブ・フォース(Positive Force)他のバンド名が見えます。彼らは社会的弱者のサポートもためにコンサートをしてきました。上段右の写真には、ライオット・ガール(Riot GrrrL)という文字も見えますが、それは、1990年代に入って登場した女性メンバーによるパンク・ロック・バンドによるフェミニズム運動を指しています。下段の左の写真から、パンク・ロック・バンドは、レコード制作も自分たちで行うこと(Do It Yourself)ことを進めたことがわかります。またポジテイブ・フォース(Positive Force)というバンドは、1985年にワシントンDCで結成されてから昨年で40周年を迎えた息の長いバンドで、ほかのバンドと一緒にワシントンDCの住民のチャリティー活動を行ったり、米国内や国際レベルでもさまざまな抗議活動を組織したり参加したりしてきました。そうしたことがうかがわるのが、下段の右の写真です。
4階資料室。出された資料。撮影日1/16/2026
Installation view of exhibition, Up from the People: Protest and Change in DC, Martin Luther King Jr. Memorial Library, Washinton, DC. (Detail showing ABC, January 16, 2026
ゴーゴー・ミュージックとパンク・ロックの展示を見てから、“The People’s Archives”(人々のアーカイブス)の資料室に行きました。上段の左はその資料室の写真です。その右は、今回請求したパンク・ロックの資料の箱です。これらの資料は、ポジテイブ・フォース(Positive Force)というバンドの設立者の一人である、マーク・アンダーソン(Mark Anderson)によって寄付されたパンク・ロック関係の当時の情報誌資料で、ジンズ(ZINS)と呼ばれていました。基本的にこれらの資料は、パブリック・ドメインとされているのですが、いろいろな情報誌の著作権もあるために、今回はそれらの資料の掲載を控えました。少なくとも、イメージとしては、上記の下段の写真のような、手作り感があるような雑誌となります。現代のようなインターネットがまだない時代において、様々なパンク・ロック・バンドへのインタビューや紹介を中心とし、情報誌によっては漫画や当時の世相、さらには当時のパンク・ロックだけでなく映画や美術に関する議論やフェミニズムに関する議論などもあったりして、非常に興味深いものでした。こうした資料を手にして読むだけでも、当時のパンク・ロック・シーンを垣間見ることができ、とても価値があるものだと思いました。
こうしたワシントン・DCのパンク・ロックの歴史を学んだ延長で、同日の夜6時から10時までの4時間の、パンク・ロックのコンサートに行ってきました。こうしたパンク・ロックの会場は、ワシントンDCの中のセント・スティーブン&インカーネーション・エピスコパル教会(St. Stephen & the Incarnation Episcopal Church)というプロテスタント教会のホールであり、そこでDCハードコアのパンク・ロックのコンサートを行うということ自体が、非常に奇妙な組み合わせで、そうした結びつきが、興味深いと思いました。さらにこのコンサートは、ワシントンDCに住む貧しい高齢者の方々のためのチャリテイーであると聞いて益々興味をもち、パンク・ロックの大ファンである夫と一緒に行きました。
St. Stephen & the Incarnation Episcopal Church前。撮影日1/16/2026
この日のコンサートは、Mouthpiece @ St Stephen's Church:Fri Jan 16, 2026 6:00 PM:https://dc-hardcore.com/past というもので、6つのバンドによるものでした。このコンサートに来た人々は、約200-300人であったと思いますが、いわゆる若者だけでなく、けっこう年配者もいましたし、男性だけでなく女性も多かったと思います。上の3枚の写真のうち、上段の左が、ミネソタ州のミネアポリスからやってきた メンバーが皆20代前半と思われた、エブリバデイ・テイクス・ワン(Everybody takes One)というバンド、上段右がおそらく40代またはそれ以降のメンバーのワシントンDCのライン・オブ・サイト(Line of Sight)、そして下段が、おそらく40代後半から50代のメンバーのニュージャージーからのマウスピース(Mouthpiece)の演奏時のものです。観客の一部はずっと跳ねっぱなし、飛びっぱなしといった状態でした。私個人としては、いわゆるハード・コアと呼ばれる音楽よりも、もっとメロデイーがしっかりあるような音楽好きです。このコンサートは、とても激しく、絶えず叫び続けているような音楽でしたが、それでも、スピード感あり、まだ激しい音が体全体に響くような感じで、かつ、米国の現状を憂い、怒り、そしてなんとかしようぜといったメッセージもあり、4時間立ちっぱなしで体を揺らし続けていた私は、夫とともに予想以上に楽しんでしまいました。こうしたパンク・ロックの集まりは、あくまで音楽でつながるもので、いわゆる政治的なプロテスト運動とは形は異なっても、今後は、いろいろな形でもっともっと人と人が繋がっていけばよいと思いました。
今回は、マーティン・ルーサー・キング・ジュニア記念図書館の“The People’s Archives”(人々のアーカイブス)の特にゴーゴー・ミュージックとパンク・ロックの展示、また関連してパンクロックのコンサートについてご紹介をしました。パンク・ロックに関しては、メリーランド大学の、ミッシェル・スミス・パフォーミング・アーツ・ライブラリー(The Michelle Smith Performing Arts Library)の中に、「DC・パンク・コレクション」(D.C. punk collection)がありますので、いつかそこでも資料が閲覧できればと思っています。(D.C. punk collection:Collection: D.C. punk collection | Archival Collections) (YNM)

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