日本の戦争画家-藤田嗣治

米国国立公文書館には数多くの写真資料が所蔵されています。写真資料からは、戦争当時の様子など現在の私たちでは想像しきれないような事実を感じることができます。これらの写真は、従軍した兵士が撮影したものが多く、彼らはいわゆる「戦場カメラマン」です。日本では今もなお、数少ない戦争体験者の方々の協力により、当時戦地で撮影した貴重な写真を集めた展示などが各地で催されていて、戦争を知らない世代へ平和の大切さを訴え続けています。


ふと「戦場画家」は当時どういう存在だったのだろう、と気になりました。日本の戦争画は日中戦争以後多くの画家により盛んに描かれたそうです。日本軍は陸軍美術協会と呼ばれる組織を設立し、美術を通して戦争を正当化しようとしました。また描かれた作品は戦時中も積極的に公開展示され、多くの国民に「戦争は正しい」と植え付けるプロパガンダ的な役割もあったようです。


米国国立公文書館にも「Collection of Japanese War Paintings」の資料があるとのことで早速閲覧してみることにしました。


大型ボックスに所蔵されているこの資料は一つの大きな冊子になっていて、作品を撮影した写真が一枚一枚丁寧につづられていました。作品は1937年~1945年に描かれたもので、この一冊には約40人もの日本人画家が描いた戦争画約150点が収められていました。


筆者撮影


すべての作品はとても絵画とは思えないほど描写が細かくまるで写真のようです。写真は事実をそのままを映し出し、戦争の生々しさが伝わりますが、こうした戦争画は画家の目を通して見る戦争なので、彼らの「想い」が込められているように感じます。

こうした戦争画は、初期のころは画家が陸海軍からの委嘱を受け、実際に戦地へ出向き描いていたようですが、戦況が激しくなる1943以降は、兵士への取材やヨーロッパ絵画の戦争表現の資料などをもとに想像で描かれる作品が増えたようです。


Photograph No.FEC-47-80871 Catalog #78, Record of Allied Operational and Occupation Headquarters, World War Ⅱ, Civilian Air-Raid Defense (Area, Tokyo) by SUSUKI Makoto, Record Group 331-JWP; National Archives at College Park, College Park, MD


Photograph No.FEC-47-80920 Catalog #127, Record of Allied Operational and Occupation Headquarters, World War Ⅱ, Departure of Special Air-Attack Corps, KAMIKAZE, From Base on Home Island(Area: TACHIKAWA Air Field) by IWATA Sentaro, Record Group 331-JWP; National Archives at College Park, College Park, MD


この冊子の中に日本の戦争画の代表的な画家である、藤田嗣治の作品も多く収められていました。藤田嗣治はパリで絵を学び、その後日本に帰国し従軍画家として活動した人物です。私は絵のことは詳しく分かりませんが、素人の私が見ても彼の作品は時が止まったように見入ってしまいました。画面全体の迫力から、戦場の凄まじさが伝わります。兵士一人ひさとりの表情からは、今から死ぬという覚悟のうらに混乱や悔しさといった思いも感じられます。

 

Photograph No.FEC-47-80896 Catalog #103, Record of Allied Operational and Occupation Headquarters, World War Ⅱ, Pearl Harbor on 8 Dec. 41 (Japanese Time) by FUJITA Tsuguji*1, Record Group 331-JWP; National Archives at College Park, College Park, MD


Record of Allied Operational and Occupation Headquarters, World War Ⅱ,End of American Soldiers in Solomons Sea Area by FUJITA Tsuguji, Record Group 331-JWP; National Archives at College Park, College Park, MD


下の写真は彼の代表的な作品「Final Fighting on Attu アッツ島玉砕」です。この写真は白黒で分かりづらいのですが、この作品には戦死した兵士のそばに紫の花が描かれているそうです。まるで死んでいく兵士への手向けのようで、藤田の「想い」が感じられる作品です。


Record of Allied Operational and Occupation Headquarters, World War Ⅱ,Final Fighting on Attu(Area: Aleutian Islands) by FUJITA Tsuguji, Record Group 331-JWP; National Archives at College Park, College Park, MD


これらの戦争画のオリジナルは現在、東京国立近代美術館に所蔵されていて、2015年9月19日から12月13日まで「特集:藤田、全所蔵作品展示」が行われているようです。機会のある方はぜひオリジナルの作品をご覧ください。

また彼の半生を映画化した「FOUJITA-フジタ」も11月から公開されています。こうした伝記映画はアメリカでも上映されると思うので、ぜひ観てみたいと思います。


*1)藤田嗣治の名前は、当資料中の英語表記ではFUJITA Tsuguji と記されています。


(SP)