米国雇用促進局(Work Projects Administration: WPA)の連邦音楽計画と美術計画

1930年代から1940年代の米国では、失業者の雇用を促進する目的で発足された政府機関であった米国雇用促進局(Work Projects Administration:以下WPA)が失業者を様々な公共事業を通じて雇用しました。WPAが企画・実行するプロジェクトはWPAプロジェクトと名付けられ、ここ米国国立公文書館でもたくさんの資料が保管されています。1935年から1943年に解散するまで、WPAはたくさんの公共施設や森林公園などの建設や整備等を積極的に担っていました。米国国立公文書館があり、ニチマイ米国事務所が拠点とするメリーランド州にもカトクティン・マウンテン・パーク(Catoctin Mountain Park)も、WPAプロジェクトによって建設されたもので、有名な建設物の1つです。

 

今回はWPAの一番最初のプロジェクトである連邦計第一号(Federal One)の中の連邦音楽計画(Federal Music Project:FMP)と連邦美術計画(Federal Art Project: FAP)という二つに重きを置いて資料を紹介していきます。

 

連邦音楽計画は失業者の中でも音楽家のみを雇用し支援する目的を持った芸術家支援計画の中の一部で、多くの音楽家の窮地を救ったと言われています。このプロジェクトで救われたのは雇用された人々ばかりではなく、コンサートや音楽教育を行ったことによって当時、不景気により不安定であった市民の生活にも良い影響を残したプロジェクトであった事でよく知られたプロジェクトでした。このプロジェクトに関連する資料はほとんどが新聞の切り抜きですが、たくさんの切り抜きが丁寧に保存されているため当時WPAの音楽計画が世間を賑わせていたことは明白です。

 

次の写真の新聞の切り抜きはどれも無料コンサートを開催する告知です。WPAが開催したコンサートは殆どが無料または低料金であったために市民も鑑賞しやすかった事でしょう。

 

NORTHERN CALIFORNIA MUSIC PROJECT No. CACIF

RG 69 Records of the Office of Work Projects Administration Federal Music Project Newspaper Clippings, Programs, and Press Releases. 1941-1942 Alabama – California, Box 83   National Archives at College Park, MD

 

左の資料は盲目のピアニストについて書かれた記事です。7歳の頃から視力を失った彼ですが、彼の音楽家としてのキャリアと共に64歳になってもWPAの音楽プロジェクトを通して活動を続けているという個人の音楽家を紹介するような記事も目立ちました。

 

“Blacked Out 57 Years But Still Working”  PRESS CLIPPINGS January – February 1942 WPA Music Project of So, Calif RG 69 Records of the Office of Work Projects Administration Federal Music Project Newspaper Clippings, Programs, and Press Releases. 1941-1942 Alabama – California, Box 83   National Archives at College Park, MD

連邦美術計画も音楽計画同様、芸術家支援計画の中の一部で、積極的に美術家のみを雇用し、大学や公共機関等に飾る絵や彫刻、外壁等を手掛けたとの事です。音楽計画とはまた違いますが、国民にも美術に触れる機会を多く与える事ができた計画であったことと思います。美術計画の資料は二階のテキスト資料の中でもたくさんの写真として残されており、新聞の切り抜きと一緒に閲覧する事ができます。

 


“SKETCHING MOST PAINTABLE GIRL”  National Art Week November 17 –November 23, 1941  RG 69 Records of the Work Projects Administration Federal Art Project Scrapbook Kept by National Art Week of Chicago, Inc., Box 59   National Archives at College Park, MD

 

左上の資料はシカゴの美術週間の新聞の切り抜きをスクラップしてあるフォルダーです。中にはいくつもの新聞の切り抜きがありましたが、個人的に右上の資料が一際目を引いているように思えました。美術週間にちなんで、複数の海軍兵達がきれいな女性の絵を書いているという写真です。この女性はシカゴの“最も描きたい女性”というコンテストで選ばれたモデルだという事です。

 

Artist: William Boelchoff  Massachusetts WPA Art Project RG 69 Records of the Work Projects Administration Federal Art Project  Massachusetts Photographs of Finished Works by Woodcarvers, Book II , n.d. Box 60   National Archives at College Park, MD

上記の写真はWPAの彫刻家、ウィリアム氏が作業をしているところです。キャプションには“東ボストン高校のために”(For East Boston High School)としか記載がないのでプロジェクトの内容等まではわかりませんが、高校に寄贈したような形なのでしょう。当時としては、著名な彫刻家ではなかったかもしれませんが、このような作業中の写真が印象的でブログで紹介することにしました。

 

1930年代に発足した政府機関であるWPAについて今回のブログを書き始めるまであまりよく知りませんでした。州や郡(カウンティ)レベルの建設業が主な活動でしたが、連邦計第一号(Federal One)のような芸術家を支援したプロジェクトがあった事も、米国国立公文書館の資料を通じて知る事ができました。やはり世代から世代へと過去に起こった出来事を伝えていく為にも資料保存はとても価値のあるものだと改めて実感しました。 (MJ)