情報局(USIA: United States Information Agency)のポスターから
アメリカ合衆国情報局(USIA: United States Information Agency)とは、アイゼンハワー大統領のもとで1953年に設置された組織で、海外への広報を通じて、米国の宣伝を担った組織で1999年まで積極的な活動を展開していました。日本語では、アメリカ合衆国広報文化交流局や海外広報庁や情報局などとも呼ばれてきたかと思います。
第2次世界大戦中に発足した諜報機関の、米国戦略局(Office of Strategic Service:OSS)や米国戦争情報局(Office of War Information: OWI)といった組織が、戦後になって、前者は、米国中央情報局(Central Information Agency: CIA)となり、後者はいったん国務省(Department of State)に吸収され、その後1953年に米国情報局(USIA: United States Information Agency)として、独立した組織となりました。(参照:Records of the United States Information Agency (RG 306): https://www.archives.gov/research/foreign-policy/related-records/rg-306 , An End and a Beginning : CIA history: https://www.cia.gov/library/publications/intelligence-history/oss/art10.htm )
今回は、このアメリカ合衆国情報局(USIA: United States Information Agency)の資料の中の、「1960年から1994年の間に作成された、または入手したポスター」(Posters Created or Acquired for Outpost Use, ca. 1960 - ca. 1994: https://catalog.archives.gov/id/7284637)というシリーズの中のポスターをいくつかご紹介したいと思います。
Left: Read. American Library Association. 306-PAR-9-104:Series: Posters Created or Acquired for Outpost Use ca. 1964-ca. 1994: Record Group 306: Records of the United States Information Agency, National Archives at College Park, MD: https://catalog.archives.gov/id/88693902
Right: July. Four Very American Days. An American Portfolio. 306-PAR-9-23 Series: Posters Created or Acquired for Outpost Use ca. 1964-ca. 1994: Record Group 306: Records of the United States Information Agency, National Archives at College Park, MD: https://catalog.archives.gov/id/88693784
上の左のポスターは、米国図書館協会(American Library Association)による読書推進を目的とするもので、ディズニーの許可を経てミッキーマウスとプルートのキャラクターが使われています。このポスターの左下には1978年にディズニーが制作したことが記載されています。アメリカを代表するキャラクターとしてはアメリカ国内はもちろん世界に大きなインパクトを持ち続けてきたので、こうしたポスターは大変有効であったと思われます。左のものは、アメリカの独立記念日である7月4日花火の打ち上げの光景ですが、それとともに、4つの、非常にアメリカ的な日として、その独立記念日の他に、1月のマーティン・ルーサー・キング・ジュニア(Martin Luther King, Jr.)記念日、10月のハロウィン(Halloween)の日、そして11月の感謝祭(Thanksgiving)の日も掲げられています。
Left: USA: Text Art 306-PAR-1-9b: Series: Posters Created or Acquired for Outpost Use ca. 1964-ca. 1994: Record Group 306: Records of the United States Information Agency, National Archives at College Park, MD: https://catalog.archives.gov/id/88693239
Right: USA: Text Art (Cities, US Department of Commerce): 306-PAR-1-9c: Series: Posters Created or Acquired for Outpost Use ca. 1964-ca. 1994: Record Group 306: Records of the United States Information Agency, National Archives at College Park, MD: https://catalog.archives.gov/id/88693241
上記の左のポスターは、アメリカ合衆国のイメージを文字にすると、カウボーイ、ロデオ、ジープ、コカ・コーラ、ホットドッグ、チューインガム、バーベキューなどが挙げられ、私自身も日本に住んでいたときは、アメリカと言えば、そうしたイメージが最初に出てきたものでした。右は、アメリカ国内代表的な都市名のうち、ホノルル、シカゴ、マイアミ、フィラデルフィア、ニューヨーク、ボストン、サンフランシスコ、そしてワシントンDCの8つが挙げられています。デザインとしてもとても面白いものであると思います。
アメリカ合衆国情報局(USIA: United States Information Agency)は、海外への米国の文化の広報を通じて、アメリカの外交政策をサポートしたり、そうした政策についての各国の世論についての情報も収集していました。特にアメリカ合衆国とソビエト連邦との冷戦時代においては、その役割は大きなものであったと思います。各国に存在するアメリカ大使館の監督下に、アメリカが以外広報局(United States Information Service)があり、図書館や出版物、そして報道のサービスや、展示会の開催や英語教育など様々な活動をしていました。この機関が作成または収集したポスターのシリーズの多くは、当時のいろいろな雑誌の表紙になっていたようですが、その内容は、文学、ジャズやブルーズやカントリーミュージックなどの音楽、ダンスや演劇などを含む芸術分野、地理や地図学分野、宇宙開発、そして英語教育といったものまで多岐にわたります。特に地図については、ネイティブアメリカン関係や、有名な探検家がたどった経路も含み米国の歴史的な成長過程を含むものもあります。また、この国のシンボル的な場所を撮影した写真もあります。さらに、ボイスオブアメリカ(Voice of America)という海外向けのラジオ放送やテレビや映画といった部門をもち宣伝活動を展開してきたので、その関係のポスターもあります。(参照:NARA, Posters Created or Acquired for Outpost Use, ca. 1960 - ca. 1994: https://catalog.archives.gov/id/7284637 , NARA Foreign Affairs Records of the United States Information Agency (RG 306): https://www.archives.gov/research/foreign-policy/related-records/rg-306)
Left: Country Rhythms: Featuring the Red Clay Ramblers and John Delafose and the Eunice Playboys
306-PAR-2-20b:Series: Posters Created or Acquired for Outpost Use ca. 1964-ca. 1994: Record Group 306: Records of the United States Information Agency, National Archives at College Park, MD: https://catalog.archives.gov/id/88693297
Right: Benny Golson All-Stars Featuring Curtis Fuller. A Cultural Presentation of the United States 306-PAR-9-21: Series: Posters Created or Acquired for Outpost Use ca. 1964-ca. 1994: Record Group 306: Records of the United States Information Agency, National Archives at College Park, MD: https://catalog.archives.gov/id/88693780
上記の左のポスターはカントリーミュージックコンサートに関するものです。演奏者のレッド・クレイ・ランバーズ(Red Clay Ramblers)はノースカロライナ州のダーラム(Durham)のバンドであり、もう一つは、ルイジアナ州のユーニス出身のジョン・デラフォースとユーニス・プレイボーイズ(John Delafose and the Eunice Playboys)でした。カントリーミュージックのイメージは古くは地方の白人の音楽といったイメージがあったのだと思いますが、音楽には人種も地域の壁はなく、こうした演奏者たちも多彩な人々によって演奏されていました。右のジャズのポスターはミシガン州デトロイト出身のトロンボーン奏者のカーテイス・フラー(Curtis Fuller)とペンシルバニア州フィラデルフィア出身のサックス奏者のベニー・ゴルソン(Benny Golson)による演奏でした。
Left: Scenically Yours, Ceremonial Cherokee dance near Andarko, Oklahoma: 306-PAR-6-18w: Series: Posters Created or Acquired for Outpost Use ca. 1964-ca. 1994: Record Group 306: Records of the United States Information Agency, National Archives at College Park, MD: https://catalog.archives.gov/id/88693573
Right: Scenically Yours, Eastward I go by force, but westward I walk free. 306-PAR-6-18aa: Series: Posters Created or Acquired for Outpost Use ca. 1964-ca. 1994: Record Group 306: Records of the United States Information Agency, National Archives at College Park, MD: https://catalog.archives.gov/id/88693581
上記の2枚は、アメリカ国内の風景を撮影したシリーズの中にあります。通常、英語の手紙では、最後に、「敬具」(Sincerely, yours)という言葉を入れますが、それをもじった形で、「風光明媚な」”Scenically, Yours”というタイトルを入れています。左はオクラホマ州のアナダーコ(Anadarko)周辺でのチェロキー族の伝統的な踊りを撮影したものです。右は、ユタ州のアーチーズ国立公園(Arches National Monument)を撮影したものです。アメリカ国内の象徴的な風景であり、力強いものであると思います。その写真のタイトルの、 「東へは無理をして行くが、西へは自由に歩く。」(Eastward I go by force, but westward I walk free)という言葉は、19世紀のアメリカの作家かつ思想家であったヘンリー・デイヴィッド・ソロー(Henry David Thoreau)が「歩く」(Waking)というエッセイの中で述べたものです。当時の彼にとっては、米国の東は欧米諸国の文明と既成の価値観が出来上がってしまった不自由なものであり、西にはまだ自然があり野生であるからこそ自由であるという認識であったようです。(参照:Walking: Henry David Thoreau: https://www.bartleby.com/109/13.html)
Left: Get Into Orbit: Learn English: 306-PAR-7-2a: Series: Posters Created or Acquired for Outpost Use ca. 1964-ca. 1994: Record Group 306: Records of the United States Information Agency, National Archives at College Park, MD: https://catalog.archives.gov/id/88693604
Right: English Communicates the Future. United States Information Service: 306-PAR-7-3: Series: Posters Created or Acquired for Outpost Use ca. 1964-ca. 1994: Record Group 306: Records of the United States Information Agency, National Archives at College Park, MD: https://catalog.archives.gov/id/88693608
上記の2枚は、「英語を勉強して、軌道に乗れ。」「英語は未来と対話する。」といったフレーズで、英語学習を促進するもので、「英語を制するものは、未来を制する。」といったニュアンスがあり、やや傲慢な印象があるのですが、当時の冷戦体制や国際化の流れからみればこうしたものも興味深いと思います。
ここでご紹介したものは全体の中の一部ですが、アメリカ合衆国のイメージをうまく切り取っているのではないかと思いました。(YN)