アメリカのチョコレート会社の歴史

アメリカのお菓子は、日本の多様で豊富なお菓子と比べると量的にも質的にも限られるかもしれませんが、アメリカのお菓子の中で、一番人気のあるチョコレートに関する資料をご紹介したいと思います。

 

アメリカのチョコレートというとハーシー・チョコレート (Hershey Chocolate) をまず思い浮かべてしまうのですが、一番古いアメリカのチョコレート会社は、ベイカーズ・チョコレート(Baker’s Chocolate)です。もともとジョン・ハノン(John Hannon)と医者であったジェームズ・ベイカー(James Baker)が、マサチューセッツ州のドーチェスター(Dorchester)で、カカオ豆を輸入してチョコレートを1764年に作り始めました。が、このハノンは、1779年に豆を調達に船で出たあと戻らず、未亡人となった彼の妻が、ジェイムズ・ベイカーに会社を売ることになり、その会社は、1780年にベイカーズ・チョコレートとなりました。ジェイムズ・ベイカーの孫のウオルター(Walter)は、会社名をウオルター・ベイカーとして、ビジネスを発展させました。さらに大きく発展することになったのは、この会社に当初クラークとして雇われ、その後マネージャーとなった、ヘンリー L. ピアース(Henry L. Pierce)という人物の功績があったと言われています。彼は、ボストン市長にもなった人物ですが、アメリカ国内だけでなく海外での販売を目指し、この会社の売り上げを飛躍的に伸ばしました。(参照:How a chance encounter created America’s first chocolate mill:Baker Chocolate Company is Lower Mills is home to America's first chocolate mill. David Roster, 1/31/2022 from Very Local: https://www.verylocal.com/how-a-chance-encounter-created-americas-first-chocolate-mill/20906/ )

 

下記は、その会社のトレードマークの画像です。20世紀に入ってから、この会社はシリアル会社に合併されましたが、1995年以降は、クラフト食品(Kraft Foods)に、2015年からは、クラフト・ハインツ会社(Kraft Heinz)に合併されましたが、そのブランドは今も生き続けています。

 


Left: Walter Baker and Company Chocolate trademark. RG36 Records of the US Customs Service 1745-1997 Series Letters Received Transmitting Trademarks, 1890-1899. National Archives, College Park, MD. NAID Number: 4734503. https://catalog.archives.gov/id/4734503

 

Right: Trademark registration by H. L. Pierce for W. Baker & Co's brand French Sweet Chocolate. 6/12/1882. TRADEMARKS, no. 9488 [P&P] Library of Congress, Washington, DC. https://www.loc.gov/resource/trmk.1t09488/

 

現在のベイカーズ・チョコレートの製品は、通常のチョコレートの販売というよりも、下記のようにケーキを作るためのチョコレート材料にフォーカスされていると思います。

 

← ↓ (5/9/2023 スーパーで購入したもの)

 

 

現在のクラフト・ハインツ会社のサイトの中には、ブランドの1つとしてこのベイカーズ・チョコレートの製品も紹介されています。https://www.myfoodandfamily.com/brands/bakers-chocolate


 

次に古いチョコレート会社は、ウィットマンズ(Whitman’s)です。ペンシルバニア州のフィラデルフィア(Philadelphia)で 1842年に、当時19歳であったステファン・ウィットマン(Stephen Whitman)が お菓子とフルーツの店を始めました。チョコレート製品は、1877年にインスタントチョコレートを、そして、1912年に、現在もスーパーでよく見かける、黄色い箱に入ったチョコレート・サンプラーを売り出しました。 下記は、インタ-ネット・アーカイブズ(https://archive.org/)から見つけた当時の宣伝です。

 


Left: Whitman's Chocolates -1901A. 1901. Man and woman choose a candy and settle the question of choice with a "piece offering." Try Instantaneous Chocolate, made instantly with boiling milk. Published in a circa 1901 issue of LIFE, the Humor Magazine. Artist: Source: Mariangela Buch Restoration by: Mariangela Buch. Internet Archives. 

https://archive.org/details/WhitmansChocolates1901A

 

Right: Whitman's Chocolates -1929A. 1929. No class messages in this ad; just beautiful Christmas gifts in beautiful metal boxes. Try these on Antiques Roadshow. Published in a 1929 issue of an unidentified magazine. Artist: Source: eBay seller dhtvl Restoration by: magscanner. Internet Archives. https://archive.org/details/WhitmansChocolates1929A

 

下記の写真は、米国国立公文書館にあったウィットマンズのチョコレート工場内のものです。


Left: Manufacture of candy. Passing centers through a chocolate coating machine. The Whitman Candy, Philadelphia, PA. 1918. Photo No. 165-WW-191A-8. NAID: 31486386. 

https://catalog.archives.gov/id/31486386

 

Right: Manufacture of candy. Hand packing chocolate covered coconut cream bars. The Whitman Candy, Philadelphia, PA. 1918. Photo No. 165-WW-191A-7. . NAID: 31486384. https://catalog.archives.gov/id/31486384

 

Both from Record Group 165 (Records of the War Department General and Special Staffs 1860-1952, Series American Unofficial Collection of World War I Photographs 1917-1918 File Unit Industries of War-Candy. National Archives, College Park, MD. 

 

ウィットマンズは、1993年に別のチョコレート会社である、ラッセル・ストーバー(Russell Stover Candies:1923創業、コロラド州デンバー)に合併されましたが、2014年に、そのラッセル・ストーバーもスイスのリンツ&シュプルングリー(Lindt & Sprüngli:1845創業)に合併されることになりました。が、ウィットマンズも、ラッセル・ストバーもぞれそれブランドとして今でも存在しています。

 

ラッセル・ストーバーのサイトの中には、ウィットマンズの歴史が紹介されているので、是非ご覧ください。Whitman’s History: https://www.russellstover.com/whitmans-history

 

(5/9/2023 スーパーで購入したもの)

3番目に古いチョコレート会社は、カリフォルニア州のサンフランシスコで誕生したギラデリ(Ghirardelli)です。イタリアで輸入商をしていたドミンゴ・ギラテリ(Domingo Ghirardelli) は、1849年にアメリカにわたり、カリフォルニア州のストックトン(Stockton)やサンフランシスコ(San Fransicisco)で菓子店を開き、1852年に本格的なチョコレート工場と会社を作りました。1906年のサンフランシスコ大地震では、町の大半が倒壊しましたが、そのチョコレート工場は、被害を受けず、其の地震発生から10日後には操業を再開したそうです。現在では、その場所は、ギラデリスクエアとして今でも観光地として知られています。1998年にスイスのリンツ&シュプルングリーの傘下に入りましたが、このブランドも今も続いており、人気のあるチョコレートの1つとなっています。

 

下の左の写真は、米国議会図書館にある、ギラデリのチョコレートのトレードマーク登録時のもので、1878年12月17日という日付けも見えます。右は、米国国立公文書館にあるもので、観光名所の1つとしてのゲラデリ・スクエアを撮影したものです。

 

Left: [Trademark registration by D. Ghirardelli for California Eagle Chocolate brand Chocolate, Broma and Cocoa] 12/17/1878. TRADEMARKS, no. 6916 [P&P] U.S. Patent Office trademarks. Library of Congress, Washington, DC. https://www.loc.gov/resource/trmk.2t06916/

 

Right: Scenically Yours, Ghiradelli, Ghiradelli Square in San Francisco, California. Photo. No. 306-PAR-6-18e. Record Group 306 (Records of the US Information Agency, 1900-2003, Series Posters Created or Acquired for Outpost Use ca. 1960-ca.1994. National Archives in College Park, MD. NAID: 88693537. 

https://catalog.archives.gov/id/88693537

 


ギラデリの歴史は、こちらにサイトにありますので是非ご覧ください。

Ghirardelli History:https://www.ghirardelli.com/about-ghirardelli-history

 

(5/9/2023 スーパーで購入したもの)

最後に紹介するのが、4番目に古いチョコレート会社で、ハーシーズ(Hershey’s) となります。1857年にペンシルバニア州の貧しい農家に生まれたミルトン・ハーシー(Milton Hershey)は、14歳でキャンデイづくりを学び、その4年後には フィラデルフィアでキャンデイショップを開店しました。が、ビジネスはうまくいかず、さらにニューヨークでもビジネスを展開しましたが、それも挫折してしまいました。1884年、彼は、ペンシルバニア州のランカスターに、新鮮なミルクを使ったキャラメルを製造する、ランカスター・キャラメル会社を作り、ようやく彼のビジネスは成功していきました。その後、彼はチョコレートづくりに興味を持ち、1894年にハーシー・チョコレート会社を作りました。1900年には、そのキャラメル会社を売却し、本格的にチョコレート製造にフォーカスして、工場を作りました。当時は、チョコレートはまだ高価なもので、一般の人々には手が届かないものでしたが、大量生産をしていくことで、チョコレートは多くの人々に普及することになりました。ミルトンは、単に起業家であっただけでなく、地域にいた孤児たちのために学校を作ったり、工場で働く従業員のための住宅や学校を作ったりするなど町づくりそのものに大きく貢献をしました。また大恐慌時には、地域の人々の雇用創出するため、ハーシーズ関連のたくさんのビルを建設し、地域の発展にも寄与しました。この会社の歴史はこちらを是非ご覧ください。

 

Milton Hershey: A Legacy of Goodness that lives on: https://www.thehersheycompany.com/en_us/home/about-us/milton-hershey.html

Our story: ハーシーのハピネスの軌跡 (日本語サイト):https://www.thehersheycompany.com/ja_jp/our-story/hersheys-happiness-history.html

 

左下の画像は、米国国立公文書館にある、おそらく20世紀初頭の、ハーシーのチョコレート・シロップを使った55のレシピが紹介されている9ページの冊子の表紙です。また、右下の画像は、1926年の、ハーシー・チョコレート会社の歴史と、チョコレートの製造過程についてまとめられた19枚の冊子の表紙です。下記のサイトからそれぞれPDFで冊子のすべてを読むこともできます。

 


Left: 55 Recipes for Hershey's Syrup Booklet. This item is a booklet published by the Hershey Corporation that provides fifty-five recipes for Hershey's chocolate syrup. Record Group 88 (Records of the Food and Drug Administration 1877-2002), Series Product Inspection Files 1906-1946, Hershey Chocolate Corporation, Hershey, PA 1929-1935. NAID: 18558579: https://catalog.archives.gov/id/18558579

 

Right: The Story of Chocolate and Cocoa Booklet. 1926. This item is a booklet produced by the Hershey Chocolate Company that provides the history of the Hershey Corporation as well as narrates the process by which Hershey cultivated, gathered, processed, and created their chocolate. Record Group 88 (Records of the Food and Drug Administration 1877-2002), Series Product Inspection Files 1906-1946, Hershey Chocolate Corporation, Hershey, PA 1929-1935. NAID: 18558585: https://catalog.archives.gov/id/18558585

 

(5/9/2023 スーパーで購入したもの)        

 (以前ハーシーパークで購入した土産品)


コロナ禍以前は、家族で毎年夏または春に、車で3時間半くらいかけてペンシルバニア州のハーシーまで行き、ジェットコースターをはじめいろいろな乗り物が楽しめる遊園地であるハーシーパーク(Hersheypark: https://www.hersheypark.com/ )と、その隣にあるチョコレートワールド(Chocolate World: https://www.chocolateworld.com/home.html  ) へ行くことが恒例でした。その遊園地は、昔ながらの遊園地という雰囲気で、子ども達と一緒に楽しんでいる親達や祖父母達も、自分達が子どもであったときから来ていたという人々も多いです。チョコレートワールドでは、チョコレートの製造過程を学ぶことができ、またチョコレートをはじめいろいろなお土産を買うことができます。子ども達はもちろんですが、大人も十分楽しめるところですので、これから私達も再び行く予定でいます。

 

 今回は、米国の古い4つのチョコレート会社を紹介しましたが、米国には、ほかにも、ドーブ(Dove:シカゴで1939年創業), ラッセルストーバー(Russell Stover:デンバーで1923年創業)他のたくさんのブランドがありますし、スイスのリンツのブランドであるリンドール(Lindor:1949年)や、ベルギーのゴデイバ(Godiva:1926年)などもあります。これらについてはまた別の機会にご紹介できればと思っています。(YMN)