ワシントンDCの米国国立郵便博物館

ワシントンDC周辺にはもう20年以上住んでいるのですが、米国国立郵便博物館には残念ながら、これまで訪れる機会を持つことができませんでした。先日、米国国立議会図書館での資料調査を終了したあとに、そこに行ってみることにしました。今回は、この博物館のご紹介をしたいと思います。

 

米国国立郵便博物館は、地下鉄レッドラインのユニオン・ステイション駅のすぐ隣にあります。この駅は、アムトラック鉄道の駅でもあるため、いつも多くの人で賑わっています。、コロナ禍で一時的に大きな打撃を受けましたが、現在では、構内の一部も変わり、新しい飲食店も増えました。このユニオン・ステイション駅の外に出て、駅を背にしてすぐ右側にこの郵便博物館があります。

 



右上のポストカードは、1914年に この建物が建設されたときの絵であり、この建物は、同年から1986年まで、ワシントンDCの郵便局として使われていました。その後、スミソニアン博物館と米国郵便公社(United States Postal Service)との協議及び同意をへて1993年に米国国立郵便博物館としてオープンして、現在に至っています。残りの3枚の写真は、現在の博物館の入り口と、その中の様子です。

 

アメリカ合衆国の郵便制度の始まりは、独立戦争(4/19/1775-9/3/1783) が始まった直後の7月26日の第2回大陸会議において決定され、その初代郵政長官に、ベンジャミン・フランクリン(Benjamin Franklin)が任命されました。アメリカ合衆国として正式にイギリスから独立をするのは、この1年後の事でした。政治家や外交官また科学者としても知られるベンジャミン・フランクリンは、アメリカ合衆国建国の父の一人としてよく知られていますが、彼はもともと印刷業を担い、新聞を発行していました。発行した新聞を郵便を通じて広く配布することができるという、印刷業と郵便業がすでに密接なつながりを持っており、フィラデルフィアでは、すでに郵便局長としての実績も持っていました。独立戦争がはじまり、イギリスと本格的に戦うことになり、議会と各戦場で戦う部隊との命令や指揮を含めてコミュニケーションが非常に重要になりました。また、それを支えるアメリカ合衆国側の人々の家族や親戚や友人同士のコミュニケーション(戦場にいる兵士と遠く離れたところに住んでいた家族、親戚や友人他)も同時に重要であり、イギリスから何としても独立を勝ち取るためには、アメリカ合衆国内部の通信制度を整備しなければなりませんでした。その後、アメリカ合衆国の郵便制度は、都市の形成や、人々の移動や移住、さらには、海外からの移住、またそれらを支える鉄道や船の発展、そして飛行機の登場など国家としての近代化の過程の中で、飛躍的に拡大し、整備されていきました。

 

1775年から開始されたアメリカ合衆国の郵便事業は、その後改革の必要性に迫られ、1971年に独立行政機関としての米国郵政公社(United States Postal Service: USPS)となり、現在に至っています。

 


左上の写真は、現在の米国郵政公社が出版した、アメリカ合衆国の郵便の歴史をまとめた、“The United States Postal Service: An American History” (https://about.usps.com/publications/pub100.pdf :162pages.) の表紙であり、右上の写真は、この博物館サイトの歴史の、”History of the Smithsonian National Postal Museum” (https://postalmuseum.si.edu/history-of-the-smithsonian-national-postal-museum)という画面ページで、動画を交えて説明されています。

 

この博物館の入り口の階には、まず、ウィリアム・H ・グロス スタンプ コレクション(William H Gross stamp collection)という展示室があります。彼は、著名な投資家ですが、同時に切手収集家としてもよく知られています。ここでは、切手の歴史や印刷技術また切手の種類や世界の切手について知ることができるようになっています。

 



上段の3枚は、その展示の入り口と切手展示や切手の印刷機です。下段の左は、1847年に発行された米国の普通切手で5セント切手はベンジャミン・フランクリンの顔で、10セントは、初代大統領のジョージ・ワシントンの顔になっています。右は、第一次世界大戦期のアメリカ合衆国を代表する航空機のカーチスJN-4という飛行機(愛称:ジェニー)の1918年の切手ですが、100枚ずつ印刷された切手シートのうち、1枚のシートだけなぜか逆さまになってしまい、それが「エラー切手」として非常に価値のあるものとして知られるようになり、「宙返り24セント」("Inverted Jenny")と呼ばれています。

 




切手の展示室の階からエスカレーターで降りると、そこには、とても広い空間があります。郵便をどのような手段で運んできたのかといった歴史が学べるところです。上記の6枚の写真のように、最初は馬に乗ったり、馬車で運んでいた郵便物が、やがて鉄道や、車、そして飛行機なので米国内を長距離で、また海外にまで運べるようになったことがよくわかります。

 



また、上段の2枚は、19世紀後半の米国の郵便列車内の様子です。当時は、郵便物の区分けは、郵便列車内で行い、さらにそれぞれの地域に向かう別の列車に渡すという形で、まさに「走る郵便局」でした。下段の2枚は、1888年から1897年まで生きていた、犬のオウニー(Owney)で、この郵便列車に職員といつも一緒に乗っていたいて、当時は大変有名な犬でした。当時は列車事故も多かったので、そこで働く郵便職員も危険でしたが、この犬のオウニーが乗っていた列車は事故を起こすことはなかったので、職員にとっては、この犬は、マスコットであり、同時にお守りのような役割も持っていました。

 





広い空間の展示の周りに、郵便制度の発達史の展示もありました。ここでは紹介しきれない内容なのですが、上の9枚の写真のように、町の郵便局は、それぞれの地域の拠点であり、絶えず人が集まり、交流する場所でもあったこと、また仕事を得るために地方から土地部に移りすむ人々と、その地方に残る家族との手紙、また海外から生きるために米国にやってきた人々と故国に残った人々との手紙、そして南北戦争や、第1次世界大戦や第2次世界大戦を含めて戦場で戦っている兵士と、故郷にいる家族との手紙のやり取りなども展示され、米国の壮大な郵便の歴史を学ぶことは、米国の歴史そのものを学ぶことであるということをあらためて実感しました。

 

世界のポストのうち、日本の昔の郵便ポストの上部部分もありましたのでつい懐かしい気持ちになりました。

 

この博物館の展示は、アメリカ合衆国の郵便制度の歴史が、わかりやすくかつ楽しく学べるようになっており、同時にとても充実した内容であり、子どもにとってはもちろん大人にとっても、とても興味深い博物館であると思いました。ワシントンDC周辺にいらっしゃることがあれば是非ご覧いただきたい博物館の1つです。(YNM)